【2025年度】IPO支援コース 企業成長セミナー「株式上場のリアル」を開催いたしました!
2025年9月12日、鹿児島大学 稲盛会館 キミ&ケサ メモリアルホールにて、企業成長セミナー IPO支援コース「株式上場のリアル」を開催いたしました。
内部統制と情報収集が上場へのヒントに

株式会社 東京証券取引所 岡野 豊氏
第1部は「最近の上場動向」というテーマのもと、(株) 東京証券取引所の岡野 豊氏に、現在の上場を取り巻く環境についてお話しいただきました。
現在の日本の上場市場は、まさに変化の時。2~3年くらい前から、大手証券会社の多くは大規模な企業を念頭に動いています。2022年に市場区分の見直しを行いましたが、その理由の一つは、成長性の高い企業を対象にしたグロース市場でも、時価総額が上場時から1.1倍にしか成長していない現状です。この現状を改善するため、東京証券取引所は、上場前から上場後にかけて継続的な成長を支援する施策パッケージを推進しています。鹿児島の上場企業は現在12社ですが、これから上場を目指す中小企業が証券会社と契約を結ぶことは、以前よりも難しくなっており、事業を成長させることと徹底した社内整備が必要だと語ります。
岡野氏は、上場を目指す企業へのアドバイスとして、「上場を取り巻く環境は常に変化しています。企業は自社を磨き上げることだけでなく、上場に関する情報や社会全体の動向に常にアンテナを張ることが重要です。」と語りました。
鹿児島発!人と和を重んじる上場企業

ソフトマックス株式会社 代表取締役社長 萩原 千恵子氏
ソフトマックス株式会社は、鹿児島に本店を置き、東京に本社を構える、医療現場のニーズに応える「WEB型電子カルテシステム」を主力サービスとする企業です。講演では、初の女性社長である萩原氏が登壇し、顧客の成功と利益を経営理念に掲げていることを紹介しました。
創業の地である鹿児島から上場を果たし、現在は東証スタンダード市場への移行を目指しています。売上目標は10%成長を掲げ、過去最高を更新することを目指すなど、継続的な成長への強い意欲を示しています。
ソフトマックス株式会社 代表取締役会長 野村 俊郎氏
続いて、代表取締役会長の野村氏が、上場への道のりについて語りました。当初は会計システムに特化した小規模な病院システム開発から始まり、その後、大手企業が先行していた電子カルテ市場に参入しました。
この競争を勝ち抜くために、同社は当時主流だった「オンプレ」ではなく、「ウェブ」でのシステム提供という差別化戦略を選択し、今日に至ります。
野村氏は、「チラシやCMよりも早く強力な宣伝効果を持つ」と判断し、上場を決意。上場に向けて、社員と会社の考えをすり合わせ、コンプライアンスや法令遵守の徹底、そして「情報の見える化」を進めました。上場は会社の内情をすべて公開することであり、隠し事ができない透明な組織へと変革する必要がありました。
上場準備の初期には証券会社との契約に苦労したものの、内部体制を整えるにつれて、証券会社からも「大丈夫、できるよ!」という前向きな声が増えていったと語ります。
さらに、野村氏は「常に学び続ける姿を見せること」や「できる人に任せること」の重要性を強調しました。
また、上場後も「人と和を大切にする」という経営姿勢を貫いています。ヘッドハンティングによって優秀な社員が流出するリスクに備え、賃金水準を引き上げ、社員が「この会社で働き続けたい」と思える企業になることの重要性を説きました。
最終的に、上場は株主を大切にし、社会からの信頼を得るための重要なステップであると締めくくりました。

困難を極めた上場への道のり 社会を支えるための上場とは
(株) Photosynth 代表取締役社長 河瀬 航大氏
「世界から鍵をなくそう」というビジョンを掲げる、IoTのベンチャー企業である株式会社 Photosynth。代表取締役社長の河瀬航大氏は、鍵の開け閉めを可能にするIoTデバイス「Akerun」を開発し、鍵をなくすだけでなく、社会全体を開放することを目指しています。
同社が目指す「キーレス社会」とは、単に物理的な鍵をなくすことだけではありません。スポットワーカーの活用や無人運用に「Akerun」を活用するなど、社会活動を円滑にすることを目指しています。Akerunの導入により、カフェの営業時間外(夜間)の無人運用でコワーキングスペースとして開放するなど、扉を開けることによって新しいビジネスや社会のあり方を創造しています。
Photosynthは、ハードウェアとSaaS領域という特性上、自己資金のみでの経営は困難であり、創業当初から上場を目指していました。しかし、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。
上場までの道のりは、予期せぬ困難と立て直しの連続。
2018年には、当時の監査法人からクライアント契約を解除されるという予期せぬ事態や、複数の監査法人を探す「監査法人難民」状態に陥るなど苦労を重ねました。そんな逆境を乗り越え、ガバナンスや社内体制を徹底的に整えた先に、遂に上場。
上場当日の1日を記録した映像もお見せいただき、会社一丸となって上場に向かう結束感と充足感を感じる一幕となりました。
河瀬氏は、上場は決してゴールではなく、社会を支えるインフラ企業になるための通過点だと語りました。上場には多くの苦労やデメリットがあるものの、その先にしか見えない景色があると強調し、もし興味がある方がいれば、これまでのノウハウをすべて共有すると締めくくりました。

上場を巡る環境変化と、地方発上場企業の突破口とは


予定されていたパネルディスカッションは、参加者の熱気に応える形で質疑応答形式で行われました。上場時期に10年の差があるパネリスト間で、上場を巡る変遷や地方企業としての課題と展望について活発な議論が交わされました。
Q1. 本社を東京に移すことについて
現在鹿児島で起業し、「上場を目指すなら、本社を東京に移すべき!と言われている」という質問者に対し、鹿児島で上場を果たした野村氏は「鹿児島に育ててもらったという恩義から、本店(納税する場所)は鹿児島に置きました。しかし、全国で事業を展開するためには、戦いの場である東京に本社を構えることが必要でした。」と自身の経験を語ってくださいました。
Q2. 鹿児島のスタートアップが上場できるか?
続いて、鹿児島を拠点とするスタートアップの上場可能性について、河瀬氏が自身の見解を語ります。
「上場は不可能ではないけれど、全国を顧客対象にすることが必須だ」と強調。鹿児島のみを市場とすると、そもそも十分な売上を確保できない。」と指摘しました。自身の提供する「スマートロック」というサービスでは、鹿児島を拠点に上場することは現実的に難しかっただろうと振り返りつつ、「鹿児島ならではの世界に誇れるもの」を扱うのであれば可能性はあると語りました。
Q3. 地方発のIPOについて
地方企業の上場を支援する立場から、岡野氏が現在の市場状況を解説しました。
「証券会社の上場準備企業に対する目が厳しくなっており、特にグロース市場を目指す際のハードルは上昇傾向にあります。」「その上で、地方には歴史ある優良な中堅企業が多数存在しており、そうした企業に親和性の高い「スタンダード市場」の存在をより積極的に伝えていくのが、支援をする立場の役割だと感じています。」と語りました。スタートアップ企業は、スタンダード市場との親和性が高く、グロース市場以外の選択肢を広げることが重要であると締めくくりました。
上場経験者であるパネリストの生の声を聞くことで、上場を目指す鹿児島企業の参加者が自身の状況と向き合い、先輩・後輩間の貴重なコミュニケーションの場となりました。
大学の資源をビジネスに有効活用!
国立大学法人鹿児島大学 南九州・南西諸島域イノベーションセンター 研究・産学地域連携ユニット 准教授 中武 貞文氏
最後に、鹿児島大学の中武 貞文氏より、大学が持つ資源の活用について紹介いただきました。
鹿児島大学は現在、9つの学部と9つの大学院研究科があり、約11,000名の学生が3つのキャンパスで学んでいます。そんな大規模な学内には、「企業に必ずマッチする研究がある」と強調し、企業に対し、大学の情報活用や、農業・医療分野での実証実験、研究成果や公募特許などの大学の資源をビジネスに取り入れ、有効活用してほしいと呼びかけました。
